(3) ステロイドフリーの免疫抑制剤軟膏は強力な発癌性がある
(c) 考察

 
 
 
以上がアトピー治療に盛んに使用され始めているT外用剤についての演者の研究の簡単な結果・結論である。もう少し詳述すると、元来、T剤は20数年前にある製薬会社が社運をかけて開発し始めた免疫抑制剤で、臓器移植した患者の拒否反応を防ぐ薬剤である。臓器移植を受けるような患者は放っておけば3〜6ヶ月で死んでしまう患者である。そこで免疫抑制剤を使って拒否反応を防ぐのである。元来、生体の防御機能として黴、黴菌、virus、癌細胞などが体内に侵入発生すると、放置しておくとこういう異物が体を占領する。自分を守る作用として、リンパ球の中で免疫細胞(NK細胞、CD4、killer T cell、deneritic 細胞など)があり、侵入して来た、黴、黴菌、virus、癌細胞を叩きつけて、自分の体を侵入する異物から守ってくれる正常な働きがある。困った事に、移植して来た移植片も異物である。いくら血液型、HLAなど typing が match しても異物は異物である。virus などと同じ類のもので、これを防御する免疫細胞(NK細胞、CD4・・・・)がしっかりしていると、植えた他人の臓器が落ちてしまう。落ちると人間が死んでしまうので、自分の体を黴、黴菌、癌細胞から守る免疫細胞を叩かないと生きてゆけないので、そこで、T剤やサイクロスポリンなどの免疫抑制剤を使用して免疫細胞を叩いて移植片を守るのである。その弊害として異物への抵抗力がなくなり、臓器移植をした患者は数年で肺炎にかかったり、全身の黴の感染や発癌などで死ぬことがあるがこれはやむ得ないことである。
 
  T剤が免疫抑制剤として臓器移植されるのは、生命と引き換えですのでやむ得ない事であるが、アトピーは生命をとらない。ステロイドの副作用が余りにも強調される余り、“ステロイドフリー”のキャッチフレーズのもとに数年前に日本で、この2〜3年で全世界で販売され始めた。当然、私は発癌の副作用を予想していたが、前述のように、4年前に報告されているが14)、千例の臓器移植の患者にT剤の注射或いは内服を行っていて、7年以内に7%の固形癌、リンパ腫16,17)を入れると10%を越す癌が発生しているというものであった。この論文とほぼ同時に、臓器移植をしてT剤やサイクロスポリンの免疫抑制剤を投与した患者はCD4(免疫細胞の一種)が著明に減少しているという報告があった15)。演者の数年前の心配が現実となってしまったのあった。
 
  そこで演者は、T剤の注射や内服で癌になるのなら、皮膚に外用すれば当然皮膚癌が起こると予測し、去年の初めから癌の専門の研究者の発癌系18)を使用し、前述のように、この系を用いてT剤を加えて系、加えていない系との比較をしたところ、11週〜14週までは余りはっきりした変化はなかったが、14週を越すと一般の系よりもT剤を併用した系の方が4〜5倍の勢いで癌が発生した。20週まで続けたが、とんでもない数値が出た。最も大切なことは、今回実験に用いたCD-1マウスに、発癌の initiator(DMBA)だけを塗った場合は発癌が全然起こらないことが確認されているが19)、DMBAにT剤を塗った26匹中の2匹に悪性、2匹に non-malignant の癌が発生した(Figs. 1and 2)。非常に恐ろしいことである。
 

Fig.1 Mice with tumors accelerated by “T” ointment
A large carcinoma that developed by wk 15 in a mouse treated with DMBA+“T”ointment without TPA.

 

Fig.2 Mice with tumors accelerated by “T” ointment
Several tumors (one: carcinoma, and others: papillomas) that developed by wk 18 in a mouse treated with DMBA+TPA+“T”ointment.

 

  厚生省の指導によると、15才までは塗らないよう、また一般に顔には塗らないようにという厳重な警告書がT外用剤には添付されているにも拘わらず、私は全国何万人のアトピー患者を全国各地で診察しているが、多くの患者が“ステロイドが含有されてない良いクスリ”と言う事でこのT外用剤を使用して来ている。顔にも塗っているし、子供も塗っているのである。20週続けたマウスの実験は、人間でいうと7年で、日本で正式に認可されてまだ2年半ぐらいである。あと数年で恐ろしいことになる。ステロイドが怖いという恐怖の余り、“狼が怖いと言って後からライオンが出て来た”のだ。アトピーは生命をとらず治らない。このような患者に、発癌性のあるT剤を長期塗ることは大いに一考を要すると思うのである。
 
  ステロイド外用の副作用は主なもので皮膚の萎縮である。発癌するくらいなら皮膚の萎縮の方がずっとよいと思われる。
 
  現在 T剤の外用が世界でも認可され始め、一昨年は日本で、昨年はアメリカ、カナダなど 6ヶ国、今年はEUのドイツ、イギリス、フランスなど文明国を含む 25ヶ国で認可された。世界的に使用され始めている。某製薬会社が社運をかけて何千億円投資し、多くの銀行が融資している。
 
  私はこの実験結果は今年の日本皮膚科学会総会では口演に採用されなかった。私は可成りのショックを受けた。日本皮膚科学会総会で 40数年私は毎年採用されていたが口演に採用されなかったのは初めてであった。しかし第 32回国際皮膚科学会では outstanding quality の評価が得られ、数少ない口演の演者の中に選ばれ、更に総会講演の特別口演の演者に選ばれたのである。世界の科学者の冷静な判断に感謝し、世界の良心が守られた事に感謝した。
 
  この実験結果の詳しい 20ページの full paper の論文はこの国際学会を organize している Journal of Investigative Dermatology(JID)に投稿中である。
 
  私は別にこんな一生かかって夢にも希望しなかった最高レベルの国際学会で、最高の名誉ある特別口演をやらしていただくには可成りお粗末な学者で、私のやった実験は別に大した実験ではないと思うのである。既に説明したように、移植臓器の拒否反応を抑えるために、自分の体を守る大切なNK細胞(免疫細胞)を叩く薬剤は、当然、菌、癌、ウィルスも叩いてしまって癌が発生すると云うことは、私は誰でも考え得ることだと思うのである。
 
  私は子供が 20年前白血病で抗癌剤の副作用でこの世の最高の“生き地獄”をみて死んで行ったため、特に、こういう自然の理に反した薬剤の恐ろしさに特に敏感なのかも知れませんが、当然誰でも考えつく発癌作用を無視して、生命を奪わぬアトピーの治療薬に、T外用剤を使おうと考える、今の現代医学の考え方、製薬会社さんの基本的な姿勢、また、それに何の疑問を感じられない学識経験者に、また世界 25ヶ国で何の疑問と抵抗もなく医薬品の認可が得られた事実に、私は大きな失望と疑問を禁じ得ないのである。
 
  私は、ここで稿を終えようとした所だったが、この原稿を書いている最中にアメリカから入ったびっくりするような速報うぃ最後に御報告申し上げる。
 
  アメリカで T外用剤を使用していたアトピー性皮膚炎の患者が皮膚癌になった事が判明したのであった。私の実験結果は実に的を射たものであり、とてもグットタイミングだったのある。マウスの 20週は人間の7年だが、アメリカで使用され始めて僅か 1年で既に皮膚癌がでたとは、皮膚はマウスより人間の方がずっと弱いようである。また、日本では 2〜3年前に認可され、アメリカでは 1年前に認可されたのだが、未だ日本で皮膚癌の発癌の報告がないのは、白人はメラニン色素が少ないために発癌因子である活性酸素を除去する scavenger が少なく皮膚癌になりやすいのである。白人は有色人種より紫外線にも弱く、皮膚癌の患者が多くいる。このような理由でアメリカでは使用期間が 1年で癌が発症してしまったのだと考える。