ホームBOOK紹介 > 「がん患者よ、近藤誠を疑え」 〜ベストオピニオンを得る45のアンサー〜 近藤 誠 講師
 

 Book 017


『がん患者よ、近藤誠を疑え』
〜ベストオピニオンを得るための45のアンサー〜

近藤 誠 講師 著

 

 
   手術、抗がん剤、先進医療、すべて無駄という根拠が
 
   なんとも衝撃的なタイトルで始まる近藤先生の最新刊。近藤誠先生といえば、再三紹介してき『患者よ、がんと闘うな』などの著書でおなじみの医師です。慶応大学病院放射線科を退職後、近藤誠がん研究所・セカンドオピニオン外来を開設しています。
   今回、紹介するこの本は、抗がん剤だけはやめなさい、がんは放置するべし、という近藤先生の発言や著書に対する、現役医師たちからの反発や誹謗中傷を受け、改めてその主張の根拠を提示するものです。丹羽先生も、同様、誹謗中傷を受けながら、意思を曲げることなく治療を行っています。抗がん剤は百害あって一利なし、その真理はどんなにがん研究が進歩しようとも、変わりはないといいます。
   そんななか、近藤先生がこのようなタイトルの本を出版したわけは、患者さんはあまりにも医師の発言や勧めを信じすぎる。『信じることをやめて、考えること』を促したかったからだそうです。僕のことを疑って、考えてほしいと。そのために、この本では、あえて、第三者のジャーナリストの方に、率直な疑問質問を投げかけてもらい、この議論に明確な答えを出すという方法をとっています。しかも、インタビューを行ったジャーナリストの森さん自身が2012年に大腸がんを発症し、東大病院で手術をされ、その後、転移し、ステージVaという診断を受けました。医師からは抗がん剤を勧められましたが、QOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)を落としたくないということで、辞退したそうです。
   そこに至るまでには、がんに関するありとあらゆる本、さらに難解な医学書をも読み調べたそうです。さすがジャーナリストです。近藤先生にいわせると、自分の命がかかっているのですから、本来は患者さんはそうあるべきだとか。
   そんな森さんでも、術後の抗がん剤治療を受けるかどうか、迷ったそうです。なぜか、そのことが今回の本の全体を通して伝わってくるメッセージです。
 
   早期発見がんなのに放置していいのか
 
   森さんはこのようにいっています。「がんの発見からがんによる死へと至る時間軸。つまり、健康診断、切除手術、経過観察、抗がん剤治療、放射線治療、再発、先進医療、代替療法、治験、緩和ケアというなかで、はたして患者は、近藤先生の説くように、がんは放置、抗がん剤治療はしない、と振る舞えるものなのか。がんを放置することへの心理的抵抗は決して小さくはない。ましてや早期発見で放置するなど・・・」
   だから、そんな家族を代表して、様々な疑問、葛藤を近藤先生にぶつけたのです。
   私たちも、常日ごろ丹羽先生にお会いし、実際に抗がん剤治療の無意味さを伺い、近藤先生を始めとする様々な先生たちの著書で抗がん剤の害について紹介しているのに、いざとなると迷うかもしれません。なぜなら、自身たっぷりの医師に「いまは副作用のない、いい抗がん剤もあります。あなたの場合、認可された抗がん剤は効果ないから、新しい抗がん剤を試してみますか?すぐに手術しましょう。幸い、一週間後に手術枠が空いています」といわれたら、揺らいでしまいそうです。地位も名誉も知識もある立派なお医者さんを前に「新しい抗がん剤ということは人体実験ということですよね」とか「手術しないで放置したらどうなるのですか?実際、放置した患者さんを最後まで診たことはありますか?」などと聞けるわけがありません。医師を目の前にすると、どうしても臆してしまうからです。
   近藤先生のセカンドオピニオン外来にいらっしゃる患者さんもほとんどそうだといいます。その場では近藤先生の話に深く納得され、手術はしない、抗がん剤もしない、と固い決意で出ていくそうです。が、その後、医師に勧められ、あっけなく手術、抗がん剤という選択をし、亡くなられる方が多いといいます。
   昔は他の先生に診てもらうのは失礼にあたる、などという考え方が多く、一つの病院で患者さんを丸抱えしていたそうです。しかし、最近は、誤診や治療方法の間違いを懸念して、セカンドオピニオン、サードオピニオンを受けることが、患者さんとして最低限の意思表示だといわれています。
   ところがこのセカンドオピニオンも、近藤先生は、何人もの医師たちの意見が一致したときこそ警戒しなければならないといいます。一致すれば患者さんは安心するするけれど、それがそっくり間違っている場合や、誘導の場合もあるそうです。逆に、意見が異なっているときは、そのどちらかが真実に近いはずだと。
   「だから私たちは意見の違いこそ大事にしなければならない。診断や治療は多数決で決まるものではない。違った意見をみつけて、それを手掛かりに自分の頭で考えていこう。治療を受けて後悔しないためには、治療の前に接するすべての言葉を疑うこと。信じることをやめて、考えること」
 
   早期発見、早期治療は無意味
 
   近藤先生の語録でよく耳にするのが『がんもどき』という言葉です。先生は、固形がんには『本物のがん』と『がんもどき』の2種類しかなく、体内でがん細胞が発生した時点で、その患者の運命は決まっている、といいます。これをもとに『がんの早期発見や早期治療は無意味』といいます。近藤先生は、「転移があれば本物のがん。なければもどきです。最初のがん細胞が発生した時点で、運命は決まってしまう。そのがんが本物であれば、体のどこかに転移が潜んでいますから、いずれ目に見える形で転移が現れてきます。逆にもどきであれば、転移によって命をなくすことはありませんから、基本的に治療をする必要もありません」
   本書ではこのことを証明する胃がんに関するひとつのデータを提示しています。それは1975年から現在に至るまでの胃がんの発見者数と死亡者数のグラフです。発見者数はすごく増えているのに、死亡者数は毎年ほぼ同じなのです。早期発見、早期治療が大事なら、死亡者数が減っていなければならないのに、まったく減っていないのです。近藤先生はそのことを、「健診で発見者数は増えているけれど、それらのほとんどはもどきだということです。早期発見、早期治療をしても本物のがんは治せなかったという証です」
   といいます。「早期発見、早期治療を唱える医者たちは、もどきを次から次へと手術しているにすぎないのです。その証拠に、わずか1センチの本物を早期発見、早期治療したにもかかわらず、その後、転移が明らかになったケースも山ほどあります。このことはどう説明しようというのでしょうか」
   つまりは、手術などしなくていいものをがんだ、早期発見できて良かったといって手術しているケースが多いということです。近藤先生は、手術にはリスクもつきもの。例え内視鏡手術だから、ロボット手術だから負担が少ないといっても、これらの新しい手術法は、医師の技量にばらつきがあって、失敗も多いといいます。群馬大学病院で行われた腹腔鏡手術で何人もの方が亡くなられた事件は記憶に新しいところです。
   いま、巷は健診ブームです。乳がんを始めとしたがん検診。このことも近藤先生は警鐘を鳴らしています。
   「軽い気持ちでがん健診を受けると、臓器を失うことになる。例えば、前立腺がん。これはPSA検査というものが行われるようになってここ40年で40倍にも増えているがんです。そもそも前立腺がんなどはほとんどがもどき。放っておくのがいちばんなんです。それを多くの男性が無駄な検査と摘出手術を受け、多くの男性が尿漏れやインポテンツという後遺症に一生悩まされる」
   このことは、丹羽先生も同様のことをいっていました。前立腺がんは非常にゆっくりと進行するから生死に関わるがんではないと。手術だけはするなと。
 
   内視鏡手術は、新米医師の練習台
 
   本書のさわりを紹介しましたが、このあと、手術医師たちの実態、術後の経過観察の有害無益。百害しかない抗がん剤、放射線、先進医療、代替医療について、明快な回答が次から次へと書かれています。それらのなかから、印象的な話をいくつか紹介します。
   まず怖いのは、患者さんの負担が少なく、比較的簡単にみえそうな内視鏡手術の話です。質問者の森さんも、胃がんの場合、医師から臓器は残し、内視鏡手術にしましょうといわれて断れる患者はいないといいます。
   「内視鏡手術による手術が適用されるのは食道や胃、大腸などの管状の臓器ですが、これらの管の厚さはわずか5ミリと非常に薄いのです。しかも曲がりくねっている。手術のときは管に空気を送って膨らませるから、さらに薄くなる。そのようなきわどい状態で、薄皮からさらに薄い薄皮を剥がしたりします。手元が狂うと臓器に穴があいて、場合によっては大量出血し、開腹手術になってしまうこともあります。最近流行の粘膜剥離手術の事故率は15%という報告もあるほどです。穴が開いてしまうのが事故なら、狭窄といって管が狭くなるのが後遺症で、大腸などでよく見られます。また、内視鏡手術は未熟な若い医師たちの練習台にされてしまう危険性もあります。患者は病院ランキング本などで施行件数が上位の病院なら安全だろうと思いがちです。しかし、施行件数が多いと若い医者も多く、彼らや彼女らに患者をあてがい、練習をさせて評判を維持することで、将来も若い医者が集まってくるよう配慮しているのです」
   さらに医者しか知れない手術室内のこと、外科医の世界のことなどが書かれいます。
   「そもそも大学病院は教育機関です。したがって教授が部下や新米らに手術をさせることはザラです。患者は麻酔をかけられたら誰が手術をしているかわからない。逆にメスは自分が執る、という教授のもとには若い医師が集まらないというのが現実なのです。みんな手術の腕を磨きながら専門医の資格を取り、論文を書いて博士号を取り、この世界で活躍したいんです。ということは、多くの部下を抱えている有名な教授ほど手術させることをエサに人を集めているといえるのです」
 
   医学界の常識、抗がん剤は劇薬か毒薬に指定されている
 
   当然、抗がん剤の話にも多くのページをさいています。その前に、術後の経過観察についての興味深いお話を紹介しましょう。
   よくあるのは、がんの手術の後の検診です。再発しないようにマメに検査をし、時には抗がん剤治療もあるといいます。「始めにいっておくと、術後の定期的な検査は無意味です。やっても寿命には関係ない。本物のがんなら再発するし、それ以外は何も起こらない。そもそも、病院の収入は国の診療報酬にもとづく保険点数で決められていて、術後は手間や人手がかかる割りには儲けが少なく、手術だけで患者に逃げられたのでは、骨折り損のくたびれもうけになってしまうのです。だからがんお術後患者はみんな上客なのです。とくにタチのいいがん、長い間お金を落としてくれて、すぐに死なない、胃がん、乳がん患者などです。そしてCTやPET検査などで病院にお金をいっぱい落とした後、再発した場合は、何をしても治らないのに、希望を捨てずにがんばりましょう、最近はいい薬もでていますから、と耳元でささやいて抗がん剤治療に持ち込もうとします。抗がん剤は猛毒ですから、延命効果どころか、患者の寿命を確実に縮めるのです」
   抗がん剤。この毒性は、丹羽先生もずっといい続けていることです。今さらですが、近藤先生も、その毒性に対し、「すべての抗がん剤が、劇薬か毒薬に指定されています。とにかく抗がん剤には、どんなものであれ近寄らないことがいちばん」
   といいます。そして、腫瘍マーカー検査の間違い、抗がん剤延命効果のウソ、抗がん剤で小さくしてからの手術は、手術に持ち込むためのウソなどといった記述が続きます。よくいう、副作用の少ない抗がん剤なら、という話にも、恐ろしい事実がありました。「副作用が少ないということは、吐き気を抑える薬が入っているということです。そうすると、吐き気がないから、医者はどんどん抗がん剤を投与し、ついにはその毒性が強くなって死に至るのです」
   確かに、吐き気があれば抗がん剤投与を中止して様子を見るといいます。その吐き気がなければ様子を見ることなく投与されるというわけですね。
   2009年に東大病院の放射線科と緩和ケア診療部が、日本人の「死生観」と「望ましい死」に関するアンケート結果を発表したそうです。東大病院の医師106名、ナース366名、東大病院外来がん受診患者312名、一般人353名の計1137名でした。そこで先生が興味深く思った項目が「望ましい死を迎えるために、最後まで病気と闘うか」との質問でした。
   この質問に対して、東大病院の外来がん患者の81%が重要と回答したのに対して、医師はたったの11%にすぎなかったそうです。医師側と患者側の意識のギャップに近藤先生は、
   『天下の東大病院医師の9割が、治らないがんに何をやっても無駄であることを知っているため、自分が治らないがんにかかったら、苦痛を受けるだけの治療はまっぴらごめんだと考えているのでしょう』
   といいます。にもかかわらず患者の8割は苦しくても治療を受けたいと考えているとは。
   これが医療の現実だとしたら、私たちは、どのようにしてベストオピニオンを探せばいいのでしょうか。明快な回答はありません。ただ、これらの事実を知ることと、知らないのでは、大きく人生が変わるということではないでしょうか。近藤先生も、判断は私たちにゆだねています。まずは疑うこと。そして、自分で考えること。判断すること。
   ここには大きく大別したお話しだけを紹介しましたが、本書にはもっと細かく、部位別のがん症状の対処法などもたくさん載っています。ぜひ、一読してみてください。
 

 


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