年齢とともに落ちるSODの適応能力
丹羽靱負・土佐清水病院長:活性酸素で死なないための食事学(廣済堂出版)から


 酵素≠フ意味を正しく理解して欲しい

  最近NHKのテレビ番組で梅干しの効用が取り上げられ、梅干しの中には今お話しして参りました高分子の抗酸化剤、カタラーゼが含有されてることが取り上げられ、梅干しを食べて体にいいのは、その中に大量に含有されているカタラーゼによるとして、最近環境汚染で増加して来た活性酸素が、色々な病気を発生、悪化させるようになったのを、梅干しに含まれるカタラーゼが除去してくれるからという意味の解説を代々的に番組で行い、視聴者の注意をひいていました。
  このテレビが放映される前は、私は天下のNHKが企画された番組ですから、どんなに科学的で素晴らしいことをいわれるのかと楽しみにしておりましたが、この解説に、実は私愕然としたのでした。と同時に天下のNHKがこの始末であるから、一般の皆様が、酵素(剤)を誤解して健康食品などで愛飲しているのも無理ないと思ったものです。
  既に一部御説明しましたが、皆さんに間違って頂いては困るのは、既述のように、高分子抗酸化剤とは、分子量が最低3万以上で、腸より吸収されず、熱を加えれば死滅し、生で食べても胃袋を通過するとpH1の強力な胃液(塩酸)にあって失活します。いずれにしても、活性酸素除去剤として有名なSODでも、カタラーゼでも何でも、生きもので分子量が大きい酵素である限り経口的に摂取した場合、いずれにしても、体内に入って来た時には、その効果はゼロになっています。従って、抗酸化剤として有効なSODも注射にしか頼れず、また、注射にしても実際体内で効果を示すためには多くの問題を抱えており、ここ2、3年間に大半の製薬会社がSODの注射の開発計画を断念したことは既に本章で詳しく説明しました。
  とにかくase(ドイツ語でアーゼ、英語でエースと発音)≠ニいう文字が語尾に付く言葉、例えば、SOD(superoxide dismutase)' cataiase' peroxidase等々は、全て生きものの酵素であることを表しています。分子量が非常に多くて腸より吸収せず、熱、胃液で分解されるという基本的な原則が、酵素について回るのです。口から摂取する(健康)食品として氾濫している酵素類のナンセンスさに、皆さんは科学的な目を持って対処して下さい。
  ただし、もう一つ、同じように誤解してもらうと困るものに消化剤、消化酵素があります。この消化酵素は、口から摂取して効果があります。消化酵素は体内で吸収されて活躍する必要はないからなのです。即ち腸から体内に吸収されるよりはるか以前に、胃袋の中で食べ物を消化するのが消化酵素の目的なのです。従って、腸から吸収される前、胃液に潰される前に、胃袋にある食べ物と混じってこれを消化する目的で使用されるため意味があるのです。従って、サンマなどの油の多い魚に大根おろしが添えられるのは大根の中にジアスターゼという消化酵素がたくさん含まれているため、大根おろしを作って、油の多いサバやサンマを食べた後の消化をよくするために一緒に食べるものは、体によいということからです。
  天下のNHKや皆さん、梅干しの中のカタラーゼと大根おろしの中のジアスターゼとを、どうか混同して考えないようにして下さい。