今や「活性酸素は、ガンや老化ばかりか
万病の原因である」ことがわかってきた
加藤邦彦・東京大学大学院理学系助手:月刊わかさ(95‐04)から

 

 

                        ◇   目  次   ◇
§1  なくてはならない「酸素」が毒になる
§2  不安定な活性酸素が病気や老化の原因
§3  癌や脳・心疾患など多くの病気は「活性酸素」が原因
§4  「酵素SOD」が「活性酸素」の害を防ぐ
§5  「活性酸素」の局部的な発生源
 

§1  なくてはならない「酸素」が毒になる

 
  ほとんどの人は、酸素は正義の味方で、決して悪い物ではないと思っているようです。酸素がなかったら私たちは5分も生きていけないのですから、そう解釈したとしても、不思議はありません。ところがそれはとんだ思い違いです。
  例えば、空気中には酸素が約21%含まれています。この酸素濃度を約50%にして、ネズミを飼うとどうなるでしょうか。通常なら3年半生きるネズミが、その半分の寿命になります。しかも、酸素濃度を上げて100%にすると、ネズミは1週間と生きていくことができなくなります。人間でも同じことです。人間の場合、100%の酸素を2時間吸いつづけると、肺に障害が起こり、それ以上すい続けるとネズミ同様、やがて死に至ります。
  高濃度の酸素を吸えば気持ちがよく、健康にもいいなどと考えたら、大間違いです。酸素は毒なのです。酸素は私たちにとって、なくてはならないものである反面、非常に有害な面を持っています。
 
■ 過剰な活性酸素は老化や万病のもとです
  なぜこのように酸素は毒性が強いのかというと、結局、酸素が体の中で、さらに毒性の強いものに変わることが原因らしいのです。つまり、その猛毒が活性酸素≠ニ呼ばれるものです。
  活性酸素などというと、活力のある酸素かと思われる人もいるかもしれませんが、実情は全く違います。実は活性酸素こそ、老化を促進する要因であり、ありとあらゆる病気に関与している万病のもとだったことがわかってきました。そのため、今や医学の分野では活性酸素は注目の的になっています。

 

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§2  不安定な活性酸素が病気や老化の原因

 
  酸素(分子)は、分子式O2と書くことを学校の理科の授業でもな習ったでしょう。しかし、厳密にはいろいろな種類があり、構造的に不安定なものもあります。皆さんもよくご存知のように、すべての分子は、原子核とそのまわりを回って電子からなる、いくつかの原子によって構成されています。その電子が1つの軌道に2つがペア(対)になっているのが安定している状態です。
 
■ 活性酸素は不安定で他の物質を攻撃する
  ペアになっていない電子を有する原子、あるいはペアの電子のうち一方が軌道から飛び出してしまった分子はとても不安定で、安定を求めてよそから電子を奪ってペアを作ろうとしたり、逆に自分のペアを作っていない電子をほかの分子に与えようとします。このような攻撃性の強い、不安定な分子をフリーラジカルといい、活性酸素の活性酸素の多くはこれに属します。
  活性酸素は、近くにある分子や化学物質に対して、このように攻撃を加えます。攻撃された分子は、障害を受けたり,それ自身が不安定なフリーラジカルに変化し、また次の分子を攻撃します。こうした反応が私たちの体内で繰り返されたら、細胞膜やDNA(細胞の中にあって、遺伝に重要な役割を果している遺伝子の本体)、酵素(体内の化学反応を助ける物質)などが傷付けられ、老化が促進されたり、様々な形で病的な状態が引き起こされるようになるわけです。

 

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§3  癌や脳・心疾患など多くの病気は「活性酸素」が原因

 
■ 癌を誘発する唯一の共通要因は活性酸素
  ガンを誘発する要因は様々で、これまで共通した原因があるとは思えませんでした。しかし、最近になって唯一共通するものとして、活性酸素の関与が指摘されるようになっています。
  どんな要因でガンになろうとも、そこに必ず活性酸素が多く発生しています。
 

■ 脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす動脈硬化にも活性酸素が関与
  動脈硬化にも、活性酸素がからんでいました。血管壁にコレステロールを運んでくる悪玉コレステロール(LDL)と、コレステロールを逆に肝臓に持ち帰る善玉コレステロール(HDL)があることがよく知られています。しかし、このうちのLDLは、それほど悪玉ではありませんでした。
  実は、LDLが増えるだけでは、動脈硬化はたいして進行しないのです。LDLが活性酸素により酸化されると、酸化LDLになり、それが血管中の大型白血球の一つであるマクロファージという細胞にとり込まれ、泡沫細胞と呼ばれるものを形成し、コレス

テロールを血管壁に沈着させるこになるのです。
  脳や心臓の動脈が血栓(血の塊)で詰まると、血液が遮断され、虚血(血が足りなくなること)になります。これが、脳梗塞や心筋梗塞ですが、これにも活性酸素が関与していました。虚血状態になると,活性酸素が発生し、脳の組織や心筋を傷つけるのです。しかも、血流が再開すると、さらに活性酸素が発生し、組織を痛めつけてしまいます。
 
■ ありとあらゆる病気に活性酸素が関与!
  このほか、糖尿病・パーキンソン病・アトピー性皮膚炎・胃、十二指腸潰瘍・火傷・てんかん・白内障など、ありとあらゆる病気に活性酸素が関与していることが最近になってわかってきています。
 
■ ボケやアルツハイマー型老年痴呆も活性酸素が関わっている
  脳の老化にも、活性酸素は大きな影響を及ぼしていると見られています。年をとると、運動や感覚の機能が低下し、いわゆるボケと呼ばれる状態が起こりますが、年を取ったネズミに体内の活性酸素を除去する薬剤を投与すると、記憶力や体力が回復することがわかっています。また、脳卒中と並ぶ、病的なボケの原因の一つのアルツハイマー型老年痴呆も活性酸素のかかわりが疑われています。

 

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§4  「酵素SOD」が「活性酸素」の害を防ぐ

 
■ 呼吸した酸素の2%が活性酸素になる!
  困ったことに、私たちは活性酸素と縁をきることができません。普通の呼吸で消費した酸素の2%は、体内で活性酸素になるといわれえいます。紫外線や排気ガス、タバコなどでも活性酸素が出来てきます。活性酸素ができる条件は、至るところにあるといっていいでしょう。
 
■ 活性酸素から体を守る抗酸化物質SOD
  活性酸素を不必要に恐れる必要はありません。活性酸素の毒性が非常に強いので、体のほうもそれに備えて、十分な防衛網を二重、三重ところか七重、八重にも張りめぐらしているからです。
  SOD(スーパー・オキシド・ディスムターゼ)、タカラーゼ、グルタチオンバーオキシターゼなどの酵素、ビタミンC・E・カロチン(アルファ、ベータなどの種類がある)、尿酸やグルタチオンなどの物質(まとめて抗酸化物質と呼ぶことがある)が協力して、次々と襲ってくる活性酸素を消去してくれるのです。
  これらの防御網が重要であるのは、SODの働きが高い動物ほど、長寿であるころからも明白です。血液中のビタミンCやE、尿酸の含有量が高い動物ほど、長生きであることもわかっています。また、ビタミンCやEをネズミによけいに与えると、ネズミの老化が与えられたり、寿命が延びることも実験的に確かめられています。

 

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§5  「活性酸素」の局部的な発生源

 
  先にふだんに呼吸で活性酸素が発生するといいましたが、この程度の活性酸素なら、体の防御機構が働いて、なんとか処理してくれるので、ほとんど問題にはなりません。ただし、次の@〜Iのような場合、通常の体の処理能力では対処できない量の活性酸素が局部的に発生し、様々な障害を引き起こす可能性が高くなります。私たちは、「活性酸素の発生源が極めて多い」という事実にまず気がつくことが大切です。そうしなければ、私たちはいつ活性酸素の巧妙なワナにはまるか、わからないでしょう。


活性酸素の局部的発生源

 
@ スポーツなどで、大量の酸素を消費したとき

  ※例えば、ふだんの呼吸で発生する活性酸素は消費する酸素の2%にすぎません。ところが、過激なスポーツをして、ふだん呼吸している酸素量の10倍を使うと、2%の10倍の大量の活性酸素が「ワッ」っと発生してくることになります。
 
A 放射線や太陽紫外線を浴びたとき
 
B 自動車の排気ガスを吸ったとき
  ※特に都会の交通量の激しいところでのジョギングは、車に排気ガスを大量に吸い込みますし、屋外ゆえ紫外線も浴びるので、要注意ということになります。
 
C 超音波にさらされたとき
 
D タバコを吸ったとき
  ※タバコの煙の中には、活性酸素がたくさん充満しているのですが、煙に含まれる反応性に富んだ物質が肺の奥深くへ入っていき、肺の細胞の表面につくと、そこでまたたくさんの活性酸素が発生してきます。
 
E アルコールを飲んだとき
  ※アルコールも、体内で分解される過程で活性酸素を生じます。
 
F 体内に病原菌が最入したりして、過度の灸症を起こしたとき
  ※血液成分の白血球は、体内に侵入した病原菌を攻撃し、これを殺すために活性酸素を放出します。この限りにおいては、活性酸素は善玉といってもいいでしょう。しかし、それが過度になってしまうと、大量の活性酸素が作られてしまいます。
 
G ある種の制癌剤を服用・投与されたとき
 
H 血液の流れが一時的に途絶え、再び元通りに流れるとき(再還流)
  ※外科手術 : 虚血・再還流にともなって生じる活性酸素は、実は外科手術でも大きな問題なっています。例えば、手術のさいには、一時的に局部の血管を止め、終了後には血流が元どおりになりますが、このときに活性酸素が発生して、注意をしないと、手術に成功したにもかかわらず、新たな障害を引き起こしてしまうからです。
  ※スポーツ : 虚血・再還流は、スポーツでも起こります。走る、投げる、飛ぶといった激しい動作は、筋肉に血液を集中させ、消化器や生殖器などの臓器に血液が行かなくなる虚血状態を生み出し、スポーツを終えた後にその血液が臓器に再還流します。これは大量の活性酸素を発生させ、臓器などに障害をもたらす恐れがあります。
 
I その他の発生源
  ※私たちの身のまわりを見回すと、活性酸素を発生させる要因が至るところにあることに茫然とさせられます。トイレの脱臭装置のオゾン、同じくトイレの殺菌灯、スーパーの魚や肉売り場の殺菌灯、日焼けサロンの太陽灯など
 


 

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