肝 炎 の 知 識 �@
肝炎の進行過程とウイルス性肝炎の種類について
小俣政男・東京大学教授：｢肝炎と肝臓癌の関係｣(日本放送出版協会)から

  肝臓｢沈黙の臓器｣といわれています。その理由は、肝臓障害では、ある程度臓器の破壊が進行するまで症状が表面に出てこないからです。
  肝機能障害のルートは、肝炎ウイルス感染→急性肝炎→慢性肝炎→肝硬変→肝臓癌というケースが多い(特に、C型肝炎ウイルス)ようです。この項では、肝臓障害、特に肝臓癌(胃癌・肺癌に次いで第3位)の原因となる肝炎についての概略を述べます。

 
肝炎は、肝細胞に住みついたウイルスを排除しようとする免疫機能^※1が働くことから起こります。
 

  肝炎ウイルスによって、肝細胞に変性・壊死などが起こり、肝臓の正常機能^※2が低下します。リンパ球とウイルスの戦いの結果、抗体が産生され、ウイルスが完全に排除されれば、肝炎は治ります。リンパ球が苦戦して、ウイルスが排除されなければ、ウイルスは肝細胞に住み続けます。
症 状^※3＝ 食欲不振・悪心・嘔吐・倦怠惑・右上腹部痛などです。遅れて黄疽(尿や白目が黄色化)が出てきます。
 

  ウイルスが肝細胞に長期間住み続け、このウイルスのために、何年も肝炎の状態が続きます。
症 状 ＝ 多くの場合、無症状のまま経過・進行しますが、｢だるい・食欲がない｣などの症状が一つの目安です。なかには風邪と思って、医師を受診し、慢性肝炎とわかることもあります。
 

  慢性肝炎の状態が長く続くと、肝細胞の変性・壊死に加えて、結合組織が増殖し、肝臓は繊維性に硬く縮小^※4します。一般に予後は不良で、次の肝臓癌に移行することがあると、いわれています。
症 状 ＝ 腹部膨満・食欲不振・悪心・全身倦怠惑・黄疽などで、進行すれば吐血・鼻出血・下血・浮腫・腹水などをきたします。
 

  肝(臓)癌には原発性と転移性があり、肝炎ウイルスによる肝癌は原発性です。原発性肝癌は肝癌全体の約2/3で、原発性肝癌の9割以上が肝炎ウイルスによるものです。肝臓病変の最終過程で、一般に予約は不良とされています。
症 状 ＝ 食欲不振・嘔吐・鼓腸・累痩・肝腫大・黄疽・全身倦怠惑などです。
 

  急性肝炎で、何らかの原因で、肝細胞が急激かつ広範囲にわたり破壊される肝炎をいいます。
症 状 ＝ 急性肝炎の症状が急激に進行し、命にかかわります。
 

 
  肝炎ウイルスはA〜E型までが発見されています。A型肝炎ウイルスは飲食物による経口感染で、抗体ができ再発や慢性化なく、肝硬変や肝臓癌への以降もありません。D型とE型は日本では稀です。このため、以下のB型＆C型肝炎ウイルスの感染が問題となります。
 

B型肝炎ウイルス

  B型肝炎ウイルスによる感染には、病像がことなる、母子感染と成人感染があります。
 
■ 母子感染によるB型肝炎ウイルス
  B型肝炎ウイルスによって発症する慢性肝炎は、ほとんどが母子感染によるものです。
感染経路 ： 血液(出産時)
急性肝炎 ： 発症する(85％はキャリアになる)
劇症肝炎 ： 急性から移行(急性肝炎の1〜2％)
慢性肝炎 ： 移行(10％、HBｓ抗原が+の場合)
肝 硬 変 ： 発症する
肝 臓 癌 ： 発症する
(肝臓癌の11％がB型肝炎ウイルスによるもので、慢性肝炎から1年間に0.6％が肝臓癌に移行する、10年で6％)
 
■ 成人感染によるB型肝炎ウイルス
成人感染では急性肝炎にはなりますが、体力などの低下の場合を除き、慢性肝炎への移行はありません。
感染経路 ： 血液・性行為
急性肝炎 ： 発症する(多くは1〜2ヵ月で治癒)
劇症肝炎 ： 稀に急性から移行
慢性肝炎 ： まずありません
肝 硬 変 ： まずありません
肝 臓 癌  ： まずありません

C型肝炎ウイルス

  C型肝炎ウイルス感染で、問題は肝炎から肝臓癌へと一直接で繋がることです。輸血による感染が多いようです(母子感染は殆とありません)。
感染経路 ： 血液(輸血：30〜40％、刺青・覚醒剤：10％)
急性肝炎 ： 発症する(症状が軽度、無意識な進行が多い)
劇症感染 ： まず認められないようです
慢性肝炎 ： 移行(60〜80％の人が急性から移行する)
肝 硬 変  ： 発症する(感染から、約25年で肝硬変に移行)
肝 臓 癌  ： 発症する
(肝臓癌の83％がC型肝炎ウイルスによるもので、肝炎罹患後約35年で発症。慢性肝炎がら1年間に1.7％が肝臓癌に移行する、10年で17％)